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新聞報道等によれば、G20において議長国のブラジルの主導によるビリオネア(10億米ドル(1米ドル=155円換算で1,550億円)以上の資産を有する者)課税強化に向けた合意を目指していましたが、米国大統領にトランプ氏が当選し、同氏と近い関係にあるとされるアルゼンチンのミレイ大統領の反対等により、2025年11月以降、議論は停止した状況となっているとされています。
日本においてはほとんど報道されていませんが、(超)富裕層への課税強化の議論は、経済学、南北問題、地球温暖化、BEPS 2.0の諸問題と複雑に関連しているため、今後かなりの時間(数十年単位)をかけて議論されていく可能性があります。(超富裕層)個人に対するいわゆるグローバルミニマム課税自体の合意は当面は困難のようですが、各国の個人課税に影響を与える可能性はありそうです。
G20で議論されるに至った背景
1. 経済学の分野における議論
フランスの経済哲学者トマ・ピケティが関与する世界不平等研究所が発表した「世界不平等レポート2022(World Inequality Report2022)」によれば、上位1%の超富裕層が所有する個人資産は、世界全体の個人資産の37.8%を占めているとされています[1]。大恐慌前の非常に不平等な社会と言われていた時期の割合である20%弱と比べても、現状の富の偏在はかなり進行しいることになります。ちなみに、世界大恐慌、二度の世界大戦を経て、この数値は6~8%となったとされます。ピケティはその著書「21世紀の資本」において、富の偏在は資本利益率(r)> 成長率(g)による、すなわち富裕層が投資により得るリターンが経済の伸び率を上回っているのが原因であるとしています。
ピケティの研究は世界中の過去からの膨大なデータの分析によるもので、その主張が正しいか否かは別として、従来の経済理論に大きな課題を提供しています。識者によれば、この問題提起は少なくとも今後数十年間経済学の領域で議論されていく課題となるとされています[2]。特に、経済発展の初期段階では所得格差は低く、産業資本主義が発展するにつれて格差は広がり、その後はサービスの産業化、民主化などにより平等化が進むというクズネッツの逆U字カーブ仮説に疑問を呈していることの影響は大きいと考えられます。ピケティの議論は超富裕層に集中する富の偏在を課税その他の方法によりどのように解決するか、との問題を提起するものであり、ピケティ自身は全世界統一富裕税の導入を提唱しています。従って、ピケティの問題提起は、経済分野の議論にとどまらず、(世界の)税制、財政制度にも深く影響を与える可能性があると言えます。
2. 国際課税における議論
EU租税研究所が発表している「2024年版グローバル租税回避レポート(Global Tax Evasion Report 2024)」においては、超富裕層への富の集中の原因を以下のように分析しています[3]。
- 超富裕層の労働対価としての所得は微々たるもので所得の大半が資産所得であるため、自己に有利な租税制度を有する国を居住国として選択していること
- 2000年代から各国の所得税の税率が低減してきていること
- 1990年代中盤から富裕層を呼び込むために国外所得免税の導入を中心とした国際間の優遇措置競争が激しくなったこと
- 配当所得に対する免税措置を受けるため、有利な制度を持つ国に持株会社を設立することが多くなったこと
- 多国籍企業のオーナー経営者の中には配当課税を軽減するために利益を留保する配当政策に誘導することがあること
これらの節税策を採用するようになった結果、ビリオネアが支払った個人課税額の保有資産に対する割合は欧州で2.5%、米国で5.0%、その他の地域の割合はさらに低いため、全世界ベースで0.3%となっているとされます。所得に対する実効税率は示されてはいませんが、かなりの低税率であろうとしています。(下図参照(「2024年版グローバル租税回避レポート」Table 5.3を参照して作成))
2023年における各地域のビリオネアの状況
地域 | ビリオネア数 | 資産合計(billion$) | 一人当たり資産(billion$) | 納税額 (billion$) |
対資産納税割合(billion$) |
---|---|---|---|---|---|
ヨーロッパ |
499 |
2,418 |
4.8 |
6.0 |
0.25% |
北米 |
835 |
4,822 |
5.8 |
24.1 |
0.50% |
東アジア |
838 |
3,446 |
4.1 |
8.6 |
0.25% |
南&東南アジア |
260 |
991 |
3.8 |
2.5 |
0.25% |
ラテンアメリカ |
105 |
419 |
4.0 |
1.0 |
0.24% |
サブサハラアフリカ |
11 |
52 |
4.7 |
0.1 |
0.19% |
中東&北アフリカ |
75 |
182 |
2.4 |
0.5 |
0.27% |
ロシア&中央アジア |
133 |
586 |
4.4 |
1.5 |
0.26% |
合計 |
2,756 |
12,916 |
4.7 |
44 |
0.34% |
「世界不平等レポート2022」においても、超富裕層への富裕税(資産に対する課税)や多国籍企業へのミニマム課税の導入を提言していますが、G20のディスカッションの基礎となっている「2024年版グローバル租税回避レポート」も同様な主張をしています。当該レポートによれば、地球温暖化を含む様々な問題に取り組むための歳入不足に充当するため、かつ国家間の租税競争をなくすため、経済のグローバル化によって最も恩恵を受けている大手多国籍企業及び超富裕層個人に対する課税につき、以下の政策を提言しています。
- OECDが中心となって進めている大手多国籍企業に対する第二の柱のグローバルミニマム課税の税率を15%ではなく25%とし、実体による課税免除所得(初年度は有形資産の8%及び給与の10%、10年の移行期間を経てそれぞれ5%へ低減の予定)制度を廃止すること
- ビリオネアに対する2.0%の資産に対する課税(富裕税)を導入すること
以上は政策論的には一定の合理性がありますが、富裕税の導入は課税技術的には非常に難しいと考えられています。何故ならば、全世界に散在する富裕層個人の資産を正確に把握するためには、全世界統一的な情報交換・集約システムが必要ですが、現行の共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)に基づく自動的情報交換では十分な情報集約が行われないと考えられているからです。
上記を提言しているEU租税研究所は、EUにより設立された独立的な研究機関で、地球温暖化、デジタル化に対応するための財源を確保することを目的としています。その意味では、大手多国籍企業及び超富裕層個人に対する課税強化の主張はEUにおいては根強いものがあると考えられます。
G20で展開されたディスカッションとその反応
G20の2024年議長国であるブラジルは、従来から富裕な先進国は地球温暖化対策の費用をより多く負担するべきであると主張しています。サンパウロで開催された2024年2月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議に「2024年版グローバル租税回避レポート」の共同報告者であるガブリエル・ズックマン教授を招待し、ビリオネアに対する2.0%の資産に対する課税(富裕税)の導入の提言を受けています。さらに、開発経済学の分野で2019年に最年少でノーベル経済学賞を受賞したマサチューセッツ工科大学教授エステル・デュフロも2024年4月にワシントンで行われた財務大臣・中央銀行総裁会議において、以下の提言を行っています。
- 地球温暖化の主要な原因は、(西欧)富裕国が多量のCO2を排出しているためである。地球温暖化による超過死亡が主として熱帯地域において生じている。デュフロ教授の試算によれば、この対策のため毎年5,000億米ドル必要とされるが、この5,000億米ドルは(西欧)富裕国のいわゆる道徳的な債務(Moral Debt)である。
- この5,000億米ドルの対策費は負担できない者から徴収するのではなく、いわゆるビリオネアから2%富裕税を徴収すること、OECD主導の包摂的枠組みにより導入されつつある第二の柱のグローバルミニマム課税の税率を15%ではなく18%にすることにより調達できる。
2024年7月に開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議にOECDは「税と格差(Taxation and Inequality)」、IMFは「所得移転への対応方法(Alternative Options for Revenue Mobilization)」、ズックマン教授は「超富裕層に対する統一的ミニマム課税に関するブループリント(A blueprint for a coordinated minimum effective taxation standard for ultra-high-net-worth individual)」と題した報告書を提出しています。OECD及びIMFの報告書はどちらかというと現状分析、技術的分野にフォーカスしていますが、ズックマン教授の報告書は、ビリオネアへの2%の富裕税の導入を主張しています。この7月の財務大臣・中央銀行総裁会議の公式声明では、上記3つの報告書を参照しつつ、「超富裕層の個人を対象に含む公正かつ累進的な課税その他の課題に関する対話を促進する」としています。
ここまではG20の枠組み内で超富裕層への課税の議論が進むのではないか、と思われていましたが、24年10月の財務大臣・中央銀行総裁会議における公式声明は、「課税主権を完全に尊重しつつ、我々は、超富裕層の個人が効果的に課税されることを確保するために、潜在的な協力分野について議論することを期待する」との合意にとどまり、実質的にG20内の統一的な超富裕層への課税の議論はストップしたものとされています。新聞報道等によると、超富裕層への富裕税課税等に反対の立場をとるトランプ氏が次期米大統領に選出されたことへの配慮と、トランプ氏と近い立場とされるアルゼンチンのミレイ大統領がG20内で反対の立場をとったためとされています。
国連におけるディスカッション
2024年12月、一部の先進国等の反対と棄権がありましたが、アフリカ等の発展途上諸国を中心に、国連総会において国連国際租税協力枠組条約の内容を検討する政府間交渉委員会(Intergovernmental Negotiating Committee to draft a United Nations Framework Convention on International Tax Cooperation)の設立が採択されました。反対票を投じた国は、アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、イスラエル、日本、ニュージーランド、韓国、英国、米国の9カ国で、棄権した国は、EU加盟国、コスタリカ、スイス、UAE等の43カ国とされます。
この委員会は近年の国際課税の諸問題に対処するものとされ、今後2025~2027年にかけてその対応策の詳細を詰めることになっています。超富裕層に対してどのような課税枠組を提案するかは、現状において見通すことはできません。ただし、委員会の検討課題の一つには、超富裕層の脱税、租税回避を防止し、メンバー国における実効ある超富裕層への課税を実現することが挙げられています。アフリカ等の発展途上諸国のイニシアティブにより設立された委員会ですので、その議論の展開を見守っていく必要があると考えられます。
日本における現状
「Forbes 2024 Japan’s 50 Richest」の資料によれば、日本のビリオネアは49人(家族を含む)で、その資産総額は2,000億米ドルであると計算することができます[4]。「世界不平等レポート2022」等とは根拠資料が異なるため、単純な比較はできませんが、日本のビリオネアについては、その数及び保有資産額とも他の国・地域と比較してかなり少ない数値と考えられます。
日本においては、2023年度の税制改正において、高所得者層において金融所得等の割合が高いことにより所得税負担率が低下する状況を是正するため、「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化」措置が講じられ、2025年分以降の所得税に適用されることとなりました[5]。一定の富裕層の課税強化は行われていることになります。それ以外には、マスメディアが金融所得一体課税を取り上げることがある、経団連が2024年12月に税と社会保険料のバランスを適正化する施策の一環として(すべての所得階層の実質可処分所得が継続して増加する範囲内での)富裕層への課税強化に言及している、といった程度です[6]。超富裕層に対する富裕税(所有資産に対する一定税率課税)などの議論はなされていないため、日本における議論はマイルドな状況と言えるでしょう。これは、日本における個人資産の偏在がそれほど大きくないことも影響しているように思われます。ただし、グローバルレベルの富裕税を中心とした課税強化の議論が、日本においてどのような影響を与えるかには、一定の注意が必要であろうと考えられます。
現状のまとめ
以上、(超)富裕層への課税強化に関して、EU、G20、国連レベルのディスカッションを中心にみてきました。EUでは、地球温暖化対策の予算をどのように捻出するかとの関連で富裕層に対する課税強化ついては引き続き検討されていくと考えられます。一方、G20においては米国にトランプ政権が誕生したため、議論が進むことはないと思われます。国連においては、国連国際租税協力枠組条約の内容を検討する政府間交渉委員会が設立され、新興国の求めにより確実に富裕層課税の強化について議論が進むはずです。このような状況において、これまで国際課税問題にイニシアティブをとってきたOECDがどのような取り組みをするかが、注目されます。国連にイニシアティブを握られないように、積極的に提言をとりまとめていくのか、その舵取りが注目されます。
経済学の分野においては、経済発展政策の理論的なバックボーンとなっていたクズネッツの逆U字カーブにピケティ等が問題提起をしたことの影響を見極めるべきと考えられます。この問題提起は、特に欧州においては地球温暖化対策費用の捻出のための富裕層課税強化と結びつけられているため、経済学及びその関連分野においてどのような着地点をさぐるのかは、今後の富裕層課税強化のための理論構成に非常に大きな影響を与えるように思われます。
日本においては、個人資産の富裕層への偏在がそれほど大きくないため、富裕層への課税強化は余り大きなトピックとはなっていません。しかしながら、政策論議においても多少なりとも指摘される問題です。グローバルレベルの富裕層課税強化の議論の影響を受けることも考えられます。日本においても、将来的に見過ごすことができない問題となる可能性はあるように思われます。
お見逃しなく!
富裕層への課税強化は、EU、G20、国連レベルでそれぞれ別個に議論が行われています。当分の間、G20では議論が進まない状況ですが、国連レベルでは、新興国が中心となって富裕層課税強化の議論が行われ、確実に結論が出される予定です。一方、これまで国際課税のルール作りの中心となってきたOECDがどのような対応をするか、興味深いものがあります。国連(又はOECD)レベルの議論がどのような帰結になるか、またどのような課税のための枠組みを作ることができるか、につき注目する必要があろうと思われます。さらに、これらの議論が(日本)国内の富裕層課税にどのような影響を与えるかについても注目すべきでしょう。
[1] 世界不平等レポート2022(World Inequality Report2022), 2025年1月20日現在取得
[2] 東京財団政策研究所 岩井 克人, ピケティ「21世紀の資本論」が指摘したこと-なぜ1%への富の集中が加速するのか-, 2025年1月20日現在取得
[3] 2024年版グローバル租税回避レポート(Global Tax Evasion Report 2024), 2025年1月20日現在取得
[4] Fores 2024 Japan’s 50 Richest, 2025年1月20日現在取得
[5] 各種所得を合算した所得金額(基準所得金額)から特別控除額(3.3 億円)を控除した金額に22.5%の税率を乗じた金額が納めるべき所得税の金額を超過した場合に、その超過した差額を追加的に申告納税することとされます。
[6] FUTURE DESIGN 2040「成長と分配の好循環」~公正・公平で持続可能な社会を目指して~, 2025年1月20日現在取得
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